自己中心的?それがどうした
走る走る奔る
少し距離があるのを侮っていた、やはり子供の体はこういう面で不利だとひとりごちる
肩で息をしながら目的地である屋敷に土足で足を踏み入れた
間に合ってくれと思いながら戸を開く
が、その思い虚しく辺りには血のにおいが充満している
念の為にと持ってきていた懐中電灯を点けると、廊下に緋い足跡がこどものものと大人のものがあるのに気づいた
嗚呼、間に合わなかったのか
その事実に後悔が押し寄せてくるが今は悔いてる暇はない
足跡を追っていくと倉庫の方へ辿り着く
そこで見たものは
と、
その足元に転がっているーーー
「……ぁ、う?」
少し掠れた様な幼い声
それに意識を戻し、カバンに入れている手袋を取り出した
*
らしくないな、と思いながら自分の手を眺める
東野久暁
それが本名の筈『だった』
その体で最後に覚えてるのは自分の血と殺したあの桃色…否、桜色の髪
そこまで記憶した次の瞬間には今の体…凩海吏へとなっていた
その上、少し時を遡ってるときた
基本的にその様な超現象については”ないもの”と考えていたが起こったからには無理にでも納得するしかない
初めのうちはどのように白軍を勝利に導くか、もしあの体の自分がいるのならそれの殺害を阻止するか、それを考えていた
だが、世界の修正力かもしれないが、中身が成人していても精神は外見に引き摺られるのかもしれない
2つ年下の弟の誕生、ただそれだけの事象で私を構成していた世界が壊れたのだ
生まれたのがただのこどもならこうならなかったかもしれない
医者ですら想定外の自体……私の弟は俗に言う『奇病』持ちだったのだ
幸か不幸か同じ病の患者がいたお陰で対処法などには困らなかった
困ったのは『涙や血液が体外に出ると宝石と化す』……その体質だった
これが露見すれば数多の組織から狙われていることは予想に難しくない
そこまで考えが至った時、『守らねば』そう思ったのだ
*
「……これで良いか」
少し離れた親戚達を殺し、この小さなこどもに殺された死体や部屋にある程度の『加工』を加え、呟く
少し心が痛んだが仕方ない
手袋を外し、不思議そうにこちらを眺めていたこどもの頭を撫でる
「君は覚えてないだろうが、私は君の未来を想おう……おそらくもう会うことはないな
私はそろそろお暇させて頂こう、さよならだ、汐」
弟の事情もある、おそらくあの人の良い両親は養子にしてやれぬことを悔やむだろうが私にはどうしようもない
未だに不思議そうな顔をしたこどもに苦笑し、その場から立ち去った
もし世界の修正力というのが本当にあるのなら、私のこの理想を叶えるのは難しいかもしれない
海吏……文字を変えれば乖離、だ
あの世界の様でなく、できるだけ幸せな世界へなるよう、私は未来を描いていきたいのだ