不器用な破綻者のこれまで
「今日からお前の世話係になった祐斗だ。
ゆーにぃでも祐斗でもなんでも好きに呼べよ?」
孤児院に連れてかれて、大人以外で初めてあった彼の言葉はどこかぎこちなかったから、俺にしては珍しく覚えている
*
「よぉ汐、また変な夢か?」
いつもの赤い夢から目覚めると暗いみどり色
ゆーにぃは多分嘘ついても気付くだろうから頷く
「そっか」
けど、詳しく聞かないのはなんでかな
昔とは違って慣れたように撫でる手をぼーっと見る
「ん、どうした?」
「ゆーにぃの手、気持ちいい…けど、むかしと違う、ね?」
「そうか?」
「そ、だよ」
うん、やっぱり違う
昔のゆーにぃはそんなに笑うの上手じゃなかった
*
神は無慈悲だ
嗚呼、きっととんでもない道化なのだろう
*
おれは生まれてこのかた、よくわからないまま貧民生活のようなものをしている
1日2食、通常の半分ほどのごはんをたべる
普通とは違うのだと悟ったのはいつかは知らない
なぜかもわからない
ただ、男だからではないということは1年後に産まれた妹を見ているとわかる
俺の知識はあいつらの見るテレビくらいだ
もっとも、勝手に付けることなどできないのだが
捨てられて、独りになった
いや、妹がいたが元から独りだったようなものだが
おそらく見られたのだろう、気づかれたのだろう、と思案する
幼くも知識を求めた俺があいつらがやっていたとても醜い光景の意味を求めて妹に手を出したのを
やってみた結果だが、個人的にあの行為をする意味はよくわからなかった
妹には悪い事をしたかもしれないが、他に試す相手がいなかった
まぁ、それは置いといて
道端に1人だ
今日は冷えている
通行人は一目見るだけで何も干渉してこない
もしかすると漸く死ねるのかもしれない
漸く、漸くだ
結果、俺は死ぬことができなかったらしい
不幸なことにもとんだお人好しに捕まったのだ
そして孤児院へ突っ込まれた
「もーユウト君ったら…もっとご飯食べないと大きくなれないわよー?」
あの小さな世界に閉じ込められてた俺からしたらここは眩しすぎて
「ユウトーあそぼーぜ!」
息苦しすぎて
「ゆーくん、いっしょにいこ!」
吐き気がする
院長がくれたノートに少しずつ
母親*気持ち悪い
父親*気持ち悪い
妹*わからない
テレビ*情報源
体を交える*よくわからない
少しずつ
孤児院*お人好しの集まり
院長*1番のお人好し
人間*気持ち悪い
少しずつ書き加えていく
俺だけの辞書
普通の辞書とはかなり違うのはわかってはいる
ただ、書きたいと思ってのことだ
世界*理不尽
いつか考えが変わる時が来るのだろうか
破綻しているのはわかっている
産まれた意味も存在意義も考える価値はないと判断した
嗚呼、だけども
死ねるであろう局面で結局毎回死ねないのだ
もう少し、生きてみる価値はあるのかもしれない